被災地と繋がり続けるために 〜石巻を訪れて〜

これは、ジャポネード 古賀律子が2012年8月7日から9日に訪れた石巻市のレポートです。
今回は、今年3月に国立ギメ美術館で開催された「石巻日日新聞作成・壁新聞展」でご縁があった石巻日日新聞社を訪ねての2泊3日の市内滞在でした。そして、震災から1年半が経った被災地がこの先の復興のために必要としていることを自分の目で確かめてくる、それがジャポネードとしてのこの旅の大きな目的でした。


  1. 石巻までの道中
  2. 石巻日日新聞社
  3. 石巻市内
  4. 石巻郊外
  5. 石巻市の住宅事情
  6. 仮設住宅
  7. 女川町
  8. 出会いと絆

石巻までの道中

茨城県水戸市から常磐高速道路を使って北上。福島県内が一部通行止めになっているため、いわきから上越道〜東北道へと迂回し、仙台で一般道に降りた。石巻に向かう途中、松島の海岸沿いから初めて宮城県の海を目にした。太平洋を目の前に建ち並ぶ土産物店の軒先には、津波の爪痕が見えない。話を聞くと、海に浮かぶ小さな島々のおかげで、津波の猛威を逃れたのだそうだ。観光客も賑わっていた。なんだかほっとした。
東松山を抜け、石巻に近づく。水戸の郊外と何ら変わらない整備された道路際には、こぎれいな大型スーパーやパチンコ店が目に入ってくる。「被災地」というがピンと来ない。意外と野原が多いと思いながら、日日新聞社に到着。社屋をバックに写真を撮る観光客を横目に正面玄関を開けた。

石巻日日新聞社

石巻市は震災で世帯数が激減し、日日新聞の購読者も減ってしまっている。けれど、地元に密着した取材で定評のあるこの新聞社では、仕事量が変わらないどころか、増えているんじゃないかと思うくらい忙しそうだ。津波の被害にあった1階の印刷室はきれいに補修され、印刷機が休みなく動いていた。2階の窓からは津波が押し寄せてきたという裏庭を眺めた。社長の近江さんや報道部長の平井さんが震災当時の話を笑顔も交えて語ってくれた。今は全てが落ち着き、かつての日常が回復しているようにも見えるが、1年半前の話を聞くと全ての人の心に悪夢のような記憶が刻まれていることに気づく。復興というのは、物質的なことだけでなく、破壊された状況に負けずに歩き続けてきた被災者の意思の強さを表す言葉でもあると感じた。

石巻市内

滞在中の半日、日日新聞記者の秋山さんに市内を案内してもらって愕然とした。市内の至る所に見えた野原はかつて住宅地だったのだ。何千戸という住宅が北上川を逆流してきた津波に流され、何もなくなった大地に茂った雑草は、海水に含まれていたミネラル成分によってどんどん伸びているという。よく見てみたら、ぽつん、ぽつんと立っている建物はもぬけの殻だった。
市内中心部の商店街は人影も少ない。数軒の店がどうにかシャッターを上げて営業しているが、殆どは閉まったまま。中には壁や天井が落ちたまま放置された店もある。なぜ修理して再営業しないのだろうか?その答えはすぐに分かった。
市街地の程近くを流れる北上川の川沿いには、新たに堤防を作る計画があるという。津波に崩されない高さのある堤防を作るためには、土台となる部分が広く必要となる。場合によっては、市街地の大半も堤防の一部と化してしまうために、修理をしても無駄になる可能性が高く、あえて営業を再開しない。と同時に、街の視界を完全に遮ってしまう壁のような堤防の建設には賛否評論があり、その計画も進まない。結論が出ない限り、放置された建物はそのまま風化していく道をたどるのみ。なんとも長いトンネルに入ってしまっているようだ。

石巻郊外

翌日、平井さんには「普段は行かない地区」を案内してもらった。そこは市街地からかなり車を走らせてたどり着いた場所だった。海岸沿いの地区。そこには瓦礫の山と工事の車両以外には何もない。何もないという言葉以外見つからない殺伐とした風景は、そこに住宅があったことを想像させる跡形もなかった。そこから更に奥に進むと、絶景というにふさわしい浜辺があった。例年ならば海水浴に訪れる人で混み合うであろうその砂浜で見た2、3人のグループは、炎天下でも泳ぐこともなく、ただ岩場を歩いていた。
その反対側、林のような陸側は津波で倒されたのであろう木が横たわり、根の部分が地上に飛び出ていた。そして、その横には住宅のブロック塀の基礎の部分だけが残っていた。

石巻市の住宅事情

現在野原となっている津波に飲まれた住宅地は、今後、住宅の建設禁止地区となると聞いた。住んでいた人々は今どこにいるのだろう?そして、今後どこに暮らすのだろう?
自身も実家を失った秋山記者の話によると、仮設住宅に暮らしてる人、身内や親戚の家に同居している人、賃貸アパートなどに暮らしている人、新しく家を建てる人がいるらしい。新しく家を建てる場合、住居を建てられる土地が減り、高台の土地が高騰し、なかなか手が出ない。また、失った家のローンも抱え、二重ローンに苦しむ人もいる。賃貸の場合、当面は家賃補助があるとのことだが(ただし、どこもほぼ空きがないらしい。)、二重ローンの問題は市民レベルでは解決できない難題である。住居建築禁止になった土地の持ち主には、国から土地の買い上げ金が支払われるが、ほとんど価値のないものとなり、新築のための頭金にもならない。

仮設住宅

秋山さんが連れて行ってくれた仮設住宅地は、いずれも市の中心から離れた地域にあった。車がなければ移動できないような場所ばかりだが、被災者の多くが国からの見舞金で車を買い、移動の不便はないらしい。それでも、実際に仮設住宅を見て胸が詰まる思いだった。公共施設の駐車場に長屋のように並ぶ住宅は味気なく、活気がない。住宅というより収容施設のようだ。そしてあくまでも「仮設」であるのに、ここに1年以上も暮らす他に行きどころのない人たちを思うと切なくなる。
車を降りて地区内の見学をしようと思えば出来たかもしれないが、物見遊山のようで、車窓からその様子を見るに留めた。

女川町

津波の被害を受けなかった女川町の一部を見渡すことの出来る高台にさしかかったとき、秋山さんが言った。「この風景をよく見ておいてくださいね」。その後、坂をおりると海が見えてきた。海岸沿いには舗装工事のダンプやクレーン車が見え、一面砂利が敷き詰めれている一帯には3つの鉄筋コンクリートの建物が”転がっている”。道路を挟んだ場所は一面野原だ。その一帯をさして秋山さんは「ここにはさっきの風景のように家がたくさんあったんです」と教えてくれた。言葉が出ない。元の町の姿を知らなければ、ただ何もない地域だと思って通り過ぎていただろう。
高台に立つ病院の駐車場から、なくなった町を見下ろした。津波はこの駐車場まで押し寄せてきたと言う。壁のような波。想像するだけで恐ろしく、記録としてカメラのシャッターを押したが、実際は写真を撮りたいとも思わなかった。
女川にも山の上の方に仮設住宅地があった。石巻市郊外でも思ったが、仮設住宅は「そこまで行かないと見えないところ」に建っている。心に留めておかないと忘れられてしまうような暮らしがそこにはあった。

出会いと絆

今回の滞在で、日日新聞社のみなさんや、NPOで被災者を支援する方、子どもたちの支援をしている方、元市役所職員として遺体処理を担当していた方たちにお話を聞くことができた。
私が一番知りたかったことは、「遠い外国にいる私たちには何ができるか」だった。そして、みなさんが何を求めているのか聞いてみた。答えは一様に同じだった。「繋がっていたい」。
絆という言葉が頻繁に使われるようになって久しいが、具体的に何をしたらいいのかが分からなかった。色々な話を聞いて「繋がっている」という言葉の意味がなんとなく理解できたような気がした。私なりの解釈ではあるが、石巻は元々田舎町でもある。国際的な交流があった場所でもない。そんな地域が津波に襲われ打撃を受けた。地元の人だけでは乗り切れなかったこともたくさんあったに違いない。
そこに、被害の規模の大きさから国際的に注目が集まった。実際に県外や海外から来たボランティアが現地に定住しているケースもある。これをきっかけに、復興に向けて前進し続けるとともに、被災前以上の地域の発展に目を向けているのだと思う。子どもたちも新しい社会作りの一員となり、市民が一体となって新たな街づくりを行おうという意欲を感じる。
これからの石巻に期待されていることは、国際的な視野を持ちながら、町の産業を支えていくことだろう。そのためには今世界と繋がっているこの状況が、一時的な支援という形ではなく、長期的な繋がりとして存在しなければいけないと思う。
私たちに求められていることは、町や産業の発展に必要だと思う技術や知識を伝えること、ボランティアとしてだけでなく美しい自然と新鮮な食材に恵まれたこの町を訪れ楽しむこと、時々でもいいからこの地域から発信されている情報に触れること、この町を思い、心に思ったことを伝えることなのではないかと思った。「繋がっていること」は、時には目に見えないことでもある。目に見えないからこそ、時々目に見える形にして気持ちを伝えることも大切かもしれない。

最後に、今回の滞在でお世話になった石巻日日新聞社の近江さん、平井さん、武内さんや秋山さんを始めとしたスタッフのみなさま、のぶさん、キッズメディアステーションの太田さん、石巻復興支援ネットワークの兼子さん他、お話を聞かせてくださったみなさまに心より御礼申し上げます。

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